お持ちの美術品を整理しようと考えたとき、多くの方は「売却」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし美術品への向き合い方には、売却以外の選択肢も存在します。 今回は売却ではなく、「寄贈」や「寄託」といった美術館に作品を譲渡、または貸与する方法についてご紹介します。
1. 「寄贈」と「寄託」の違いとは?
美術館へのアプローチの方法として、寄贈・寄託の2種類があります。それぞれの言葉の意味は以下です。
寄贈とは:お客様がお持ちの美術品を、美術館などの公共性の高い機関へ譲り渡すことです。この場合、美術品の所有権がお客様から美術館に移ります。
寄託とは:お客様がお持ちの美術品を、美術館に貸与することです。この場合、美術品の所有権はお客様が持ったままになります。
2. 「寄贈」と「寄託」それぞれのメリットや意義とは?
美術品を寄贈・寄託しようと考えた際、多くの方が気になるのは「それぞれにどのようなメリットがあるのか」という点ではないでしょうか。ここでは、寄贈と寄託それぞれの特徴とメリットについてご説明します。
寄贈のメリットとは
寄贈のメリットは、作品の金額や条件によって、税制上の優遇を受けられる可能性がある点です。
① 重要文化財またはそれに準ずる美術品を寄贈した場合
② 上記には該当しない一般的な美術品を寄贈した場合
以下、それぞれについて順にご説明します。
① 重要文化財またはそれに準ずる美術品を寄贈した場合
言葉の意味は以下の通りです。
・重要文化財:学術的・歴史的価値が高く、国が指定した文化財を指します。
・それに準ずる美術品:法的に明確な定義があるわけではありませんが、文化財として評価される可能性が高いと、国が判断する美術品を指します。
これらの美術品を、美術館などの公共機関へ寄贈した場合、以下の税制上の優遇措置が適用される可能性があります。
【受けられる主な税制上の優遇】
所得税(個人の場合)
・譲渡によって利益が出た場合
→ 譲渡益が非課税または1/2課税
・譲渡益がない場合
→取得価額(購入価格)が所得控除の対象
※控除額の上限は2,000万円、当該年度のみ適用
法人税(法人の場合)
・法人が寄贈した場合
→ 作品の時価相当額が、経費(損金)として扱われ、所得金額の計算上、控除されます。
相続税
・相続した美術品を国等に寄贈した場合
→ その財産については相続税が非課税
・また非常に稀な例ではありますが、相続税の物納制度に美術品が認められたケースもあります。(2025年12月時点で確認されている実例は1件のみ)
参考サイト:
文化庁「美術品等に係る税制優遇措置について」
文化庁「文化関係の税制」
②重要文化財等に該当しない美術品を寄贈した場合
①に該当しない一般的な美術品を寄贈した場合、適用される税制上の優遇は、主に「寄附金控除」となります。
寄附金控除とは:国・地方公共団体・特定公益増進法人などに対して行った寄付について、一定額を所得から差し引くことができる制度です。
控除額の考え方:
・美術品の取得価額(購入価格)が「特定寄附金」として扱われます
・控除額には上限があり、総所得金額の40%相当額までです
以下のいずれか低い金額から、2,000円を差し引いた金額が控除額となります
寄附金控除額の計算式
(1)その年に支出した特定寄附金の合計額
(2)その年の総所得金額等の40%相当額
→ 上記いずれか低い金額 − 2,000円
参考サイト:
国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
上記のように、一定の金銭的なメリットに加え、作品を社会的資産として後世に残すことができる点も、寄贈の大きな意義といえます。
寄託のメリットとは
寄託のメリットは、美術品の所有権は手元に残したまま、保管・展示・管理を美術館などの専門の機関に任せられるという点です。
①所有権を保持できる
寄贈と大きく異なるメリットはこの所有権の部分です。
美術品の所有権は寄託者のままで、将来返却を受ける・相続する・売却するといった選択肢を残すことができます。
②美術品を適切な環境で保管・管理してもらえる
美術館に寄託することで、温度/湿度管理・専門家による状態の確認など、個人保管では難しいレベルの管理下に置くことが可能になります。
③公的展示の機会が生まれる
寄託作品は展覧会での展示や、学術研究の対象になる可能性もあります。そうすることで、『作品の認知度向上』や『作家・作品の社会的評価の向上』といった点も期待できます。
3. 実際に美術品を寄贈・寄託する方法とは?
① 寄贈か寄託かを決める
まず最初に、「寄贈」と「寄託」のどちらの方法を選ぶかを検討します。
この二つは所有権の扱いが大きく異なるため、ご自身の意向を整理したうえで選択することが重要です。
また、美術館によっては『寄贈のみを受け付けている』または『寄託のみを受け付けている』といった場合もあります。
そのため、その後の美術館選定をスムーズに進めるためにも、この段階で方向性を定めておくことをおすすめします。
② 寄贈先・寄託先となる公共機関を選定する
次に、寄贈先または寄託先となる美術館などの公共機関を選びます。
調べ方としては、お持ちの美術品に関連する
「作家名+コレクション」
「作家名+展覧会」
といったキーワードで検索する方法が有効です。
多くの場合、その作家の作品を所蔵している、または過去に展覧会を開催した美術館が検索結果の上位に表示されます。
③ 美術館へ問い合わせを行う
候補となる美術館の公式サイトにアクセスし、所蔵品や寄贈・寄託に関する案内を確認した上で、問い合わせを行います。
この問い合わせが、寄贈・寄託に向けた最初の具体的なアプローチとなります。
まとめ
美術品を整理する方法は、必ずしも売却という方法だけではないことがお分かりいただけたかと思います。今回ご紹介した寄贈や寄託は、美術品を次の時代へとつなぎ、社会の中で活かしていく方法の一つです。
保管や修復などにも経費が掛かりますし、展覧機会が少ないと判断されるような美術品の場合は、寄贈や寄託を受け入れてくいださる美術館がない場合も多くございます。美術館などへの寄贈や寄託、寄託作品の売却など、ご相談事がございました際はお気軽に花田美術へお問い合わせください。


